はじめに
デジタル技術の加速度的な進化によって、私たちの生活は格段に便利になりました。オンライン会議やチャットツールの普及は物理的な距離を超えたコミュニケーションを可能にし、リモートワークやハイブリッドワークを広く定着させています。しかし、その裏側では「常時接続」状態がもたらすストレスや、コミュニケーション過多にともなう疲弊感が多くの人々を蝕んでいるのも事実です。こうした現象はしばしば「デジタル文明病」と呼ばれ、現代のワークスタイルやライフスタイルに深く影響を及ぼしています。
本記事では、デジタルコミュニケーションが引き起こすストレスの要因やその影響、さらにストレスを緩和するための具体的アプローチを解説いたします。テクノロジーと上手に付き合いながら、健全なデジタルライフを実現するためのヒントを得ていただければ幸いです。

この記事は以下の方におすすめです。
・「Zoom,Teams疲れ」に悩み、生産性やモチベーションの低下を実感している方
・デジタルコミュニケーションの多さにプレッシャーを感じている方
・テクノロジーとの向き合い方を改め、より良いバランスを探りたいと考えている方
1. デジタル文明病の実態とは
オンラインコミュニケーションが当たり前となった現代では、「テクノストレス」という言葉が注目を集めています。Freytag et al. (2021) は、絶えず誰かとつながっていなければならないという圧力が大きなストレス要因になっていると指摘します。テクノストレスの核心は、単にコミュニケーション量の多さだけでなく、「いつでも対応できる状態であるべき」という心理的負担にあるのです。
特に、「顕著性」「リアクティビリティ」「モニタリング」というオンライン警戒の概念が、利用者の認知的負荷を高め、結果としてストレスを増幅させる主な要因だとされています (Freytag et al., 2021)。常時接続環境がビジネスやプライベートで利便性をもたらす一方、こうしたプレッシャーをいかにコントロールするかが、デジタル時代の大きな課題になっています。
2. 常時接続がもたらす心理的負担
オンラインツールを駆使することでコミュニケーションを効率化できる一方、常時接続が私たちにもたらす心理的負担は見過ごせません。マルチタスクの横行はストレスをさらに増幅させる要因として知られています。Freytag et al. (2021) によれば、マルチタスクは認知的リソースを過度に消費し、同時に複数のタスクをこなさざるを得ない状況を作り出すため、ストレスが蓄積しやすくなります。
さらに、常時接続によって得られるはずのつながりが、かえって孤立感を生み出すケースもあります。Mirowska & Bakici (2023) はこれを「テクノ・アイソレーション(techno-isolation)」と名付け、絶え間なくオンラインであるがゆえに、むしろ周囲との距離を感じたり、孤独感を深めたりする可能性を指摘しています。こうした心理的負担が継続的に蓄積されることで、ストレスの慢性化リスクはさらに高まっていくでしょう。
3. 「ズーム疲れ」―ビデオ会議が引き起こすストレス
新型コロナウイルスのパンデミック以降、ビデオ会議の導入が急拡大しましたが、その反動として広く知られるようになったのが「ズーム疲れ(Zoom Fatigue)」です。Anh et al. (2022) は、頻繁かつ長時間のビデオ会議が精神的疲労を増大させ、生産性や満足度を低下させる要因になり得ると報告しています。
なかでも、仕事関連のビデオ会議はストレスの度合いが特に高いと指摘されています。職場の目標や成果に対するプレッシャーが加わるため、単なるコミュニケーションの枠を超え、心理的な重荷として作用するからです (Anh et al., 2022)。ビデオ会議を避けられない状況が増えた今日だからこそ、ズーム疲れを如何に軽減するかが、多くの企業や個人にとって喫緊の課題となっています。
4. テクノストレスを緩和するための実践的アプローチ
テクノストレスを軽減するには、個人レベルと組織レベル双方での取り組みが欠かせません。以下に、具体的で効果的なアプローチをいくつか挙げます。
個人の対策
- マインドフルネスの実践
Dixit et al. (2024) は、瞑想や深呼吸などのマインドフルネスを習慣にすることで、不安感の軽減やリラクゼーション効果を期待できると述べています。短い時間でも意識的に心を落ち着かせる習慣を取り入れると、日常のストレスが軽減されやすくなります。 - マルチタスクを制限する
一度に複数のタスクを処理しようとすると認知的負荷が高まり、ミスやストレスの原因になりがちです。Freytag et al. (2021) によれば、タスクを区切って一つひとつ集中して取り組むことで、効率と精神的安定の両立が期待できます。 - デジタルデトックス
一定時間デバイスから離れる、あるいはSNSやメールチェックなどを制限することで、脳と心をリセットする時間を確保できます。習慣的にデジタルデトックスを行うことで、長期的なストレス軽減に役立ちます。
組織の対策
- 会議の最適化
Johnson & Mabry (2022) は、会議の回数や時間を見直し、目的やアジェンダを明確化することで、ビデオ会議疲れを大幅に軽減できると指摘しています。参加者の負担を減らすためにも、会議資料を事前に共有し、よりスムーズな進行を図ることが重要です。 - カメラオフの選択肢
Luebstorf et al. (2023) によると、必要に応じてカメラをオフにする余地を認めることで、参加者の心理的負荷や視覚的ストレスを低減できる可能性があります。オンライン会議でもオフライン同様に「休息」を取れる空気感を作り出すことが大切です。
5. デジタルとリアルのバランスの重要性
デジタルツールが私たちの暮らしや仕事に深く浸透しているいまだからこそ、リアルな体験とのバランスを適切に保つことが重要です。私も、休日には自然と触れ合う、あるいは新しい場所を訪れるなど、五感をリフレッシュさせる機会を積極的に持つよう心がけています。デジタルに偏りがちな日常だからこそ、オフラインの体験から得られる刺激やリラックス効果は、ストレス緩和に大いに寄与します。
このデジタルとリアルの「行き来」が、テクノストレスを軽減し、豊かなライフスタイルを築くための大きなヒントになると考えます。
結論
「デジタル文明病」と呼ばれる常時接続状態は、多くの人が避けられない現実となっています。しかし、テクノストレスを軽減し、心身の健康を保つ方法は決して限られてはいません。デジタルツールの活用方法を見直し、リアルな体験とのバランスを工夫することで、より健全で豊かなデジタルライフを築くことができるでしょう。
本記事でご紹介したさまざまな対策を実践しながら、ぜひ自分に合った最適な方法を探してみてください。常時接続の時代を前向きに捉え、テクノロジーと自分自身とのより良い関係性を築く一助となれば幸いです。
参考文献
- Freytag, A., Knop-Huelss, K., Meier, A., Reinecke, L., Hefner, D., Klimmt, C., & Vorderer, P. (2021). Permanently Online—Always Stressed Out? The Effects of Permanent Connectedness on Stress Experiences. Human Communication Research.
- Anh, L. E. T., Whelan, E., & Umair, A. (2022). ‘You’re still on mute’. A study of video conferencing fatigue during the COVID-19 pandemic from a technostress perspective. Behaviour & Information Technology.
- Ayyagari, R., Grover, V., & Purvis, R. L. (2011). Technostress: technological antecedents and implications. Management Information Systems Quarterly. https://doi.org/10.2307/41409963
- Mirowska, A., & Bakici, T. (2023). Working in a bubble: techno-isolation as an emerging techno-stressor in teleworkers. Information Technology & People. https://doi.org/10.1108/itp-09-2022-0657
- Bird, J. L. (2018). Constantly Connected: Managing Stress in Today’s Technological Times.
- Johnson, B., & Mabry, J. B. (2022). Remote work video meetings: Workers’ emotional exhaustion and practices for greater well-being. Zeitschrift Fur Personalforschung.
- Dixit, R., Raj, P., Raj, R. A., & Garg, P. (2024). Your Sanctuary in the Digital Age: A Stress Management Solution Redefining Wellbeing. https://doi.org/10.1109/iscs61804.2024.10581397
- Luebstorf, S., Allen, J. A., Eden, E., Kramer, W. S., Reiter-Palmon, R., & Lehmann-Willenbrock, N. (2023). Digging into “Zoom Fatigue”: A Qualitative Exploration of Remote Work Challenges and Virtual Meeting Stressors. Merits.