従業員の健康を正確に測定するには、身体的・心理的な側面だけでなく、組織環境や経済的安定など多面的に評価する必要性が強調されています。ところが、実際に何をどのように測定し、どのように対策へとつなげていけばいいのか、不明点や課題が多いのが現状です。本記事は、人事労務や安全衛生を担当される方、また一般従業員の方にも理解いただけるよう、従業員健康測定の基本から最新の技術活用、そして課題解決策のポイントまでをわかりやすくまとめました。
最新研究から読み解く“健康状態を正確に測る”ポイント
近年の研究論文[1][2][3]では、従業員の健康状態を測るうえで以下のような点が重要とされています。
- 包括的な視点:身体的健康、メンタルヘルス、社会的・経済的側面を含む多面的な評価が必要[1][2]。
- テクノロジーの活用:ウェアラブルデバイスやAIを用いたリアルタイムモニタリングで客観的データを取得できる[3][5]。
- フレームワークの導入:たとえば「PERMA+4」など、複数の次元を一体的に測定する手法が提案されている[7]。
- 主観的・客観的指標の統合:自己申告によるアンケート(主観)と生体指標(客観)を組み合わせることで、評価精度を高める[9][10]。
- 継続的なモニタリング:断片的ではなく、日常的に健康データを把握し、変化を早期に捉える仕組みが有用[10][11]。
- 倫理的側面とデータプライバシー:従業員のプライバシーに配慮し、信頼を損なわないためのルール作りが不可欠[15]。
厚生労働省でも労働安全衛生法や指針を通じて、労働者の心身の健康保持増進を促す動きが進んでおり、企業がこれらの研究知見を取り入れることで、従業員の健康と生産性向上を目指す土台が整いつつあります。
従業員健康管理を阻む課題は何か?
参考文献を整理すると、従業員の健康状態を正確に測るうえで以下のような要点が見えてきます。
- 身体的要素の測定方法
- 健康診断や人間工学的評価、安全対策を含む従来型の手法[2]。
- ウェアラブルデバイスを使ったバイオメトリクス(心拍数、睡眠、ストレス指標)[3][5]。
- 心理的要素の測定方法
- ストレスやメンタルヘルスの自己申告アンケート(たとえばPANASやSWLSなど)[9]。
- AI・機械学習による感情分析、テキスト分析[3][6]。
- 組織環境との関連
- チームワーク、リーダーシップ、コミュニケーションなどの社会的要素を考慮する必要[1][4]。
- 多階層モデル(個人、チーム、上司など)を用いて、相互作用まで含めて測定[7][8]。
- 客観と主観の差を埋める仕組み
- 自己申告結果と実際の生理学的データを統合することで、より正確に健康リスクを把握[3][10]。
- 課題:データプライバシーと信頼性
- デジタル機器での収集データが増えるほど、プライバシー管理や従業員の同意が重要[15]。
- 信頼できる検証済みの測定ツールが限られているため、慎重な選定・導入が必要[12][13][14]。
効果を上げる具体策:多面的評価フレームワーク活用のすすめ
上記の要点と課題を踏まえ、企業内で取り組むにあたっての具体的な手段は次のとおりです。
- 多面的評価フレームワークを設計する
- 身体面(健康診断・安全衛生データ)、心理面(自己申告アンケート、感情分析)、社会面(組織風土調査)などの指標をあらかじめ設計し、測定プロセスを定義しておく[1][4][7]。
- 評価項目を整理した「PERMA+4」などを参考に、自社の実情に合うようカスタマイズする[7]。
- テクノロジーを導入して客観データを補完する
- ウェアラブルデバイスの配布や、PC・スマホの使用状況からストレス兆候を推定する仕組みの構築[3][5]。
- 自己申告データとバイオメトリクスデータを統合管理するプラットフォームを開発・導入する[6]。
- 定期的・継続的なモニタリングとフィードバック体制
- エコロジカル・モメンタリー・アセスメント(EMA)の発想を取り入れ、日常的に健康状態を確認する[10][11]。
- 結果を個人や組織にフィードバックし、改善やサポートにつながる具体的アクションプランを提示する。
- プライバシー保護と倫理的配慮
- 同意取得やデータの匿名化など、法令やガイドラインに準拠した運用ルールを整備する[15]。
- 収集データの利用目的や保管方法を明確化し、従業員にわかりやすく説明する。
- 自社に合ったツール選定と検証
- 導入前に、信頼性が検証済みのツール(東京大学開発のスケールなど)を含め比較検討する[12][13]。
- 社内試験運用や、専門家のアドバイスを得て継続的に改善する[14]。
Q&A:よくある疑問に答えます
ここでは、参考文献から読み取れる内容や、実際によくある疑問をQ&A形式でまとめます。
Q1:ウェアラブルデバイスを使って従業員のバイオメトリクスデータを収集するメリットは?
A1:心拍数や睡眠パターン、ストレス指標など、客観的に健康状態を示すデータをリアルタイムで取得できる点が大きなメリットです。自己申告データと組み合わせることで、従業員本人の体調変化を早期に察知し、健康リスクへの対策を迅速化できます[3][5]。
Q2:アンケート結果などの主観データは信用できるのでしょうか?
A2:アンケートによる自己申告は、メンタルヘルスなど主観的な面を把握するうえで欠かせない手段です。ただし、客観データとの併用が重要とされています。生理学的データと組み合わせることで、回答の偏りや曖昧さを補完できます[9][10]。
Q3:組織全体の雰囲気やチームワークは、健康状態の測定にどの程度影響がありますか?
A3:研究では、組織のコミュニケーションやリーダーシップなどの社会的要因が、従業員の満足度やストレスレベルに大きく影響するとされています[1][4]。個人だけでなく、チームや上司、企業文化の要素も並行して調査・分析することで、正確な健康評価につながります。
Q4:データプライバシーはどのように確保すればよいですか?
A4:データの匿名化や暗号化、アクセス権限の設定、本人の同意取得などが必要です。一般データ保護規則(GDPR)や国内法令を参考に、自社のルールを定め、定期的な監査やマニュアル整備も行いましょう[15]。
Q5:フレームワークを作る際、PERMA+4はどのように活用されますか?
A5:PERMA+4は、ポジティブな感情・エンゲージメント・人間関係・意義・達成感に加え、さらに4つの要素を加えた多面的評価フレームワークです[7]。これを基に、「何を評価すべきか」を明確化し、測定ツールやインタビュー項目を具体化していくことが可能になります。
健康測定の要点リスト
- 身体的・心理的・社会的要素を含む多面的な評価が必要
- 主観データと客観データを組み合わせることで精度が向上
- テクノロジー活用(AIやウェアラブル)でリアルタイムモニタリングが可能
- 連続的な測定とフィードバックで、リスクを早期発見し対策をとりやすくなる
- プライバシー保護と倫理的配慮を徹底することが不可欠
- 評価ツールは検証済みのものを慎重に導入し、継続的に改善する
これらを踏まえ、各企業は自社の実情に合わせた健康測定手法を検討することで、従業員のケアに役立つ具体的な改善アクションを打ち出しやすくなります。
次のステップに向けて
従業員の健康状態を正確に把握するためには、身体・精神・社会的要素を多角的に測定し、客観データと主観データを上手に組み合わせることが重要です。今回紹介したポイントやQ&Aを参考に、自社の健康管理や安全衛生関連の取り組みを改めて見直してみてください。専門家のアドバイスや産業医と連携することで、さらに実効性の高い健康測定と職場環境づくりにつなげられるはずです。
参考文献
[1] Вартанова, О., & Maliarenko, I. (2024). Factors of comprehensive diagnosis of corporate employee well-being as a key factor in organizational success. Ìnfrastruktura Rinku.
[2] Love, M., Morphis, L., & Page, P. (1981). Model for an Employee Wellness Project. Journal of the American College Health Association.
[3] Rosca, C. M., & Stancu, A. (2024). Fusing Machine Learning and AI to Create a Framework for Employee Well-Being in the Era of Industry 5.0. Applied Sciences.
[4] Fisher, C. D. (2014). Conceptualizing and measuring wellbeing at work.
[5] Voigt, J., Höhn, J., Mut, E., Schreiber, C., Geisler, S. M., Pinta, P. S., Hamm, A., Kosakyan, H., Burkhardt, J. B., Hrach, C., Braumann, U., Stutzer, F., Österle, H., Franczyk, B., & Militzer-Horstmann, C. (2024). Conceptional Framework for the Objective Work-Related Quality of Life Measurement Through Multimodal Data Integration from Wearables and Digital Interaction.
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[7] Donaldson, S., Donaldson, S., McQuaid, M., & Kern, M. L. (2024). Systems-Informed PERMA + 4: Measuring Well-being and Performance at the Employee, Team, and Supervisor Levels. International Journal of Applied Positive Psychology.
[8] Ilies, R., Schwind, K. M., & Heller, D. (2007). Employee well-being: A multilevel model linking work and nonwork domains. European Journal of Work and Organizational Psychology.
[9] Šarotar-Žižek, S., Milfelner, B., & Čančer, V. (2013). Measurement of Employees Subjective Well-Being as an Aim of Social Responsibility. Systemic Practice and Action Research.
[10] Eatough, E. M., Shockley, K. M., & Yu, P. P. (2016). A Review of Ambulatory Health Data Collection Methods for Employee Experience Sampling Research. Applied Psychology.
[11] Ilies, R., Aw, S. S. Y., & Lim, V. K. G. (2016). A Naturalistic Multilevel Framework for Studying Transient and Chronic Effects of Psychosocial Work Stressors on Employee Health and Well‐Being. Applied Psychology.
[12] Jarden, R. J., Siegert, R. J., Koziol-mclain, J., Bujalka, H., & Sandham, M. (2023). Wellbeing measures for workers: a systematic review and methodological quality appraisal. Frontiers in Public Health.
[13] Fields, D. L. (2002). Taking the Measure of Work: A Guide to Validated Scales for Organizational Research and Diagnosis.
[14] Jarden, R. J., Jarden, R. J., Sandham, M., Siegert, R. J., & Koziol-McLain, J. (2018). Quality appraisal of workers’ wellbeing measures: a systematic review protocol. Systematic Reviews.
[15] Yadav, M., Chandel, A., & Singh, J. (2024). Measuring Workplace Wellbeing. Advances in Human Resources Management and Organizational Development Book Series.
[16] Mills, P. R. (2005). The development of a new corporate specific health risk measurement instrument, and its use in investigating the relationship between health and well-being and employee productivity. Environmental Health.