この記事の対象者
 従業員     
3.5
 人事労務担当者 
4.4
 産業医・保健師等
4.5

化学物質による休業4日以上の労働災害(がん等の遅発性疾病を除く)は、年間450件程度で推移していますが、その原因となった化学物質は、特別規則で規制されていない化学物質によるものが約8割を占める状況にあります。このような背景を踏まえて、令和4年に労働安全衛生法の政省令が改正され、特別規則で規制されていない化学物質のうち、国によるGHS分類で危険性・有害性が確認された約2900物質すべてについて製造・取扱う事業者は、リスクアセスメントを実施し、その結果に基づいてぱく露が最小限度となるための措置を事業者が自ら選択して実施する制度が導入されることになりました。これは、化学物質管理を従来の「個別規制型の管理」から「自律的な管理」に移行させていくものです。この記事では化学物質の自主的管理について書いております。

産業医

この記事は以下の方におすすめです。

・化学物質の自主的管理について知識を整理したい人


・リスクアセスメントの流れについて理解したい人

化学物質の自主的管理の始まり

化学物質の自主的管理は、事業者が自ら化学物質のリスクを評価し、その結果に基づいて適切な対策を自ら選択して実行することを指します。これは、従来の法令順守型から自律的な管理への大きな転換であり、化学物質による労働災害件数の高止まり、小規模事業場対策の必要性、国際的な化学物質管理からの遅れ等が指摘され、広範囲の法令改正に至った結果です。

具体的には、以下のような項目が含まれます:

  • 危険性・有害性に関する情報伝達の強化
  • リスクアセスメント
  • 管理体制の強化
  • 健康管理関連

また、神奈川県生活環境保全条例では「化学物質対策」として、総合的・継続的な管理及び配慮を事業者に義務付けています。これは一律の規制措置ではなく、事業内容(作業や取扱い物質等)や事業所の形態(規模や立地等)に応じた自主的な取組を求めるものです。

化学物質のリスクアセスメント


化学物質のリスクアセスメントとは化学物質の危険性・有害性を特定し、その特定された危険性・有害性に基づくリスクを見積もることに加え、リスクの見積もり結果に基づいてリスク低減措置(リスクを減らす対策)の内容を検討する一連の流れを指します。

具体的には以下のような手順が含まれます:

  1. 危険性・有害性の特定:化学物質の危険性(例:引火性、爆発性)や有害性(例:発がん性、毒性)を特定します。
  2. リスクの見積もり:特定された危険性・有害性に基づいてリスクを見積もります。これは、作業場の気中濃度を測定し、リスクアセスメント対象物質のばく露限界値と比較する方法(実測法)や、気中濃度を推定し、ばく露限界値と比較する方法(推定法)などがあります。
  3. リスク低減措置の検討:見積もった結果に基づいて、リスクを減らすための対策を検討します。

このようなリスクアセスメントは、労働安全衛生法により、SDS交付義務対象物質を製造する事業者だけではなく、取り扱う事業者も対象となっています。また、厚生労働省では化学物質のリスクアセスメントを支援するために様々なツールを作成し公開しています。これらのツールは主にリスクを見積もることを支援しており、ツールでリスクを見積もった後は見積もった結果に基づいてリスク低減措置の内容の検討が必要となります。

リスク低減措置について

化学物質のリスク低減措置の例は以下の通りです。

  1. 危険性または有害性のより低い物質への代替:危険性または有害性が高い化学物質を、危険性または有害性が低い化学物質に代替します。
  2. 化学反応のプロセス等の運転条件の変更:化学反応のプロセスや運転条件を変更することで、リスクを低減します。
  3. 取り扱う化学物質等の形状の変更:例えば、粉末状の化学物質を粒状、フレーク状、ペレット状などに変更することで、ばく露リスクを低減します。
  4. 発散源を密閉する設備:発散源を密閉する設備を設置することで、化学物質のばく露を防ぎます。
  5. 局所排気装置又は全体換気装置の設置及び稼働:局所排気装置や全体換気装置を設置し稼働させることで、作業場内の化学物質濃度を下げます。
  6. 作業手順の改善:作業手順を改善することで、労働者が化学物質にばく露されるリスクを低減します。
  7. 有効な呼吸用保護具の使用:労働者に適切な呼吸用保護具を使用させることで、直接的なばく露を防ぎます。

まとめ

このように、化学物質の自主的管理は、事業者が自らリスクを評価し、その結果に基づいて適切な対策を選択し実行することで、労働者の安全と健康を保護するための重要な取り組みです。該当される事業所の方は参考にしていただけますと幸いです。

(1) 化学物質の自律的な管理へ -産業医向け-. https://www.jniosh.johas.go.jp/groups/ghs/doc/manualForDoctors.pdf.
(2) 新たな化学物質管理 – mhlw.go.jp. https://www.mhlw.go.jp/content/11201000/000884780.pdf.
(3) 化学物質規制体系 | 山梨労働局 – mhlw.go.jp. https://jsite.mhlw.go.jp/yamanashi-roudoukyoku/hourei_seido_tetsuzuki/anzen_eisei/hourei_seido/kagakubussitu_kiseitaikei_00001.html.
(4) 生活環境保全条例の化学物質対策 – 神奈川県ホームページ. https://www.pref.kanagawa.jp/docs/pf7/tyousei/kagaku/jyourei.html.
(5) みずほリサーチ&テクノロジーズ : 企業による化学物質自主 …. https://www.mizuho-rt.co.jp/publication/column/2022/0323.html.
(6) 化学物質のリスクアセスメント実施支援 – 職場のあんぜんサイト. https://anzeninfo.mhlw.go.jp/user/anzen/kag/ankgc07.htm.
(7) 職場における化学物質対策について |厚生労働省 – mhlw.go.jp. https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/anzen/anzeneisei03.html.
(8) 化学物質による労働災害防止のための新たな規制について. https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000099121_00005.html._ (1) 化学物質リスクアセスメント事例集 – mhlw.go.jp. https://www.mhlw.go.jp/content/11305000/000664061.pdf.
(9) 化学物質リスクアセスメントの結果に基づく措置の優先順位. https://osh-management.com/legal/autonomous-management/information/priority-of-measures/.
(10) 改正・リスクアセスメント指針-17 有害性の低いものに替えれ …. https://ehimes.johas.go.jp/wp/topics/2564/.
(11) リスク低減措置の優先順位. https://xn--cckza3acj3fwiocte.net/teigen.html.