日々の業務を効率よく進めるため、私たちはスケジュール管理やタスクの優先順位付けなど、数多くの「生産性向上テクニック」に取り組んでいます。しかし、これらの方法をいくら駆使しても、根本的な問題が解決しないことがあります。
その鍵となる要素が「健康」です。健康は、個人の幸福感を支えるだけでなく、仕事のパフォーマンスを最大化させる「生産性の土台」と言えます。本記事では、健康と仕事の生産性の深い結びつきや、健康状態を向上させる具体的な取り組み方法を解説します。

この記事の対象者
従業員    
4.5
人事労務担当 
4.5
産業医療職 
4
産業医

この記事は以下の方におすすめです。

・自身の健康をどう改善すればよいかわからない


・健康経営の導入を検討している企業の経営者・人事担当者


・健康的なライフスタイルを仕事に生かしたいビジネスパーソン

1. 健康が生産性を左右する

「労働者の健康は、個人の幸福だけでなく、企業の生産性にも大きな影響を与える重要な要素です」(Gubler et al., 2017)。

近年の研究では、健康増進プログラムに参加し健康状態が向上した従業員は、生産性が約10%も向上すると報告されています(Riedel et al., 2001; Hillier et al., 2005)。運動や栄養改善など、日常生活の質を上げる取り組みが大きな効果をもたらすのです。
さらに、職場環境の要となる“心理的な安全性”や、国全体で取り組む健康政策などの社会的インフラも、労働者の健康と生産性を左右する重要なファクターです。心理社会的安全気候(PSC)が高い職場は、従業員の健康と企業の経済的成功を同時に実現しやすいとされています(Dollard & Neser, 2013)。

2. ビジネスを加速させる“健康習慣”

健康が生産性の向上に寄与する理由は、以下のポイントが挙げられます。

  1. エネルギーレベルの向上
    規則正しい生活習慣や適度な運動によって、心身のバイタリティが高まり、集中力や作業効率が底上げされます(Burton et al., 2020)。
  2. ストレス管理
    健康状態が向上すれば、ストレスに対する抵抗力も高まります。結果として心理的負担が軽減され、仕事のパフォーマンスが改善されます(Dollard & Neser, 2013)。
  3. 病欠の減少
    体調不良や病気の予防により、欠勤や遅刻が減少し、安定した生産性を確保できます(Pereira et al., 2015)。
  4. 心理的介入の効果
    心理学的アプローチを取り入れた研修やサポートプログラムは、労働者の生産性を平均して半標準偏差ほど向上させるとされています(Guzzo et al., 1985)。
  5. 作業環境の改善
    適切な作業負荷や設備投資など、物理的な職場環境を整えることで、特に現場作業者の効率が大きく向上します(Jaskiewicz & Tulenko, 2012)。

3. 職場で実践!健康増進プログラムの真価

職場に健康増進プログラムを導入することで、以下のようなプラス効果が期待できます。

  • 疾病予防と医療費削減
    健康診断や早期予防プログラムによって、疾病リスクを低減し、医療費の抑制にもつながります(Riedel et al., 2001; Hillier et al., 2005)。
  • 生産性の向上
    運動や栄養指導を取り入れた総合的なプログラムに積極的に参加することで、従業員のパフォーマンスが顕著に高まります(Pereira et al., 2015)。
  • ライフスタイル改善の推進
    肥満や喫煙、睡眠不足など、健康を阻害する要因を改善することで、仕事における効率やモチベーションが向上します(Burton et al., 2020)。

4. ライフスタイル改善による実践例

では、具体的にどのような取り組みが有効なのでしょうか。いくつかの例を紹介します。

4.1. 健康増進活動の導入

ウォーキングチャレンジやヨガ、ストレッチなどのアクティビティを社内で企画し、従業員が気軽に参加できる環境を整えます(Shikdar & Das, 1995)。

4.2. 栄養指導

社員食堂でヘルシーなメニューを充実させたり、管理栄養士による食生活の個別指導やセミナーを開いたりすることで、日々の食事を改善するきっかけを提供します(Gubler et al., 2017)。

4.3. 睡眠管理

職場に仮眠スペースやリラックスできる休憩室を設置することで、短時間の休息を促し、集中力や生産性を向上させます(Burton et al., 2020)。

4.4. 作業環境の改善

仕事の負担を軽減するためのツールやレイアウトを導入するとともに、心理的サポートを行う体制を整備し、全社的に効率化を進めます(Jaskiewicz & Tulenko, 2012)。

5. 健康への気づき

健康は、仕事のみならず生活全般のクオリティを左右する“基盤”です。私自身、かつては不規則な生活リズムで体調を崩した経験があります。しかし、適度な運動やバランスの良い食事を意識して取り入れるようになった結果、体力と気力が大幅に向上し、仕事の成果にも良い影響が表れました。
企業が健康経営に力を注ぐ意義は、従業員個人の幸福度と企業全体の成長を同時に後押しする点にあります(Ichniowski et al., 1995)。組織として健康を重視する姿勢を明確に示すことで、従業員のモチベーションやエンゲージメントが高まり、結果的に生産性向上やコスト削減などのプラス効果につながります。

6. 導入リスク&デメリットを乗り越える方法

健康増進プログラムを推進するうえで、初期投資や従業員の参加率向上といった課題を抱える企業は多いです。しかし、長期的にみれば医療費削減や生産性向上などの恩恵が見込まれるため、投資対効果は極めて高いと言えます。効果を最大化するには、以下の対応策が有効です。

  1. 従業員の声を反映した設計
    実際に必要とされるプログラムを導入するために、アンケートやヒアリングを行い、リアルなニーズを把握します(Óskarsdóttir et al., 2022)。
  2. 参加意欲を高める仕組みづくり
    ポイント制度やインセンティブを設定し、楽しみながら継続できる環境を整える(Shikdar & Das, 1995)。
  3. 段階的かつ柔軟な導入
    一度に大規模な施策を導入するよりも、少しずつ拡大していく方が定着率も上がり、従業員への負担を軽減できます。

7. 健康経営がもたらす未来

労働者の健康を高めることは、個人の幸福度を充実させるだけでなく、企業全体の生産性を底上げする強力な手段です。健康増進プログラムやライフスタイルの改善は短期的なメリットだけでなく、長期的・持続的な成果を生み出す可能性があります。
「健康」という土台をしっかり築くことで、従業員一人ひとりが自らの能力を最大限に発揮し、組織全体の成長に寄与する環境を構築することができるでしょう。

8. 真のパフォーマンスを引き出すために

健康は決して“生産性向上の手段”にとどまるものではなく、人生を豊かに彩る基盤そのものです。心身ともに健やかな状態で働くことが当たり前の社会を目指し、個人も組織も、より充実した人生と成果を手に入れましょう。本記事が皆様の一助となれば幸いです。

参考文献

  1. Gubler, T., Larkin, I., & Pierce, L. (2017). Doing Well by Making Well: The Impact of Corporate Wellness Programs on Employee Productivity.
  2. Riedel, J., Lynch, W., Baase, C., Hymel, P., & Peterson, K. (2001). The Effect of Disease Prevention and Health Promotion on Workplace Productivity: A Literature Review.
  3. Hillier, D., Fewell, F., Cann, W., & Shephard, V. (2005). Wellness at Work: Enhancing the Quality of Our Working Lives.
  4. Pereira, M., Coombes, B., Comans, T., & Johnston, V. (2015). The Impact of Onsite Workplace Health-Enhancing Physical Activity Interventions on Worker Productivity: A Systematic Review.
  5. Dollard, M., & Neser, D. (2013). Worker Health is Good for the Economy: Union Density and Psychosocial Safety Climate as Determinants of Country Differences in Worker Health and Productivity in 31 European Countries.
  6. Burton, W., Edington, D., & Schultz, A. (2020). Lifestyle Medicine and Worker Productivity.
  7. Guzzo, R., Jette, R., & Katzell, R. (1985). The Effects of Psychologically Based Intervention Programs on Worker Productivity: A Meta-Analysis.
  8. Shikdar, A., & Das, B. (1995). A Field Study of Worker Productivity Improvements.
  9. Óskarsdóttir, H., Oddsson, G., Sturluson, J., & Sæmundsson, R. (2022). Towards a Holistic Framework of Knowledge Worker Productivity.
  10. Jaskiewicz, W., & Tulenko, K. (2012). Increasing Community Health Worker Productivity and Effectiveness: A Review of the Influence of the Work Environment.
  11. Ichniowski, C., Shaw, K., & Prennushi, G. (1995). The Effects of Human Resource Management Practices on Productivity.
  12. Schrader, C. (1972). Boosting Construction-Worker Productivity.