私たちの生活にすっかり浸透したスマートフォンは、仕事からプライベートまで、あらゆるシーンで役立つ便利なツールです。しかし、その利便性ゆえに常に手放せず、「スマホ依存」に陥る人が急増しています。とりわけ問題となっているのは、スマホの使いすぎが引き起こす睡眠不足です。Job総研が実施した調査(2024年)によると、社会人の74.3%がスマホ依存を自覚し、そのうち71.7%が睡眠不足を訴えています(1)。

「寝る直前までスマホで情報を追いかける」「気づくとベッドの中でSNSをチェックしている」といった声は決して珍しくありません。では、その習慣が私たちの身体や心にどのような影響を及ぼしているのか、深く考えたことはあるでしょうか。本記事では、スマホ依存がもたらす睡眠不足の実態、身体と心への悪影響、そして具体的な解決策を余すところなく解説します。

この記事の対象者
従業員    
4.5
人事労務担当 
4.1
産業医療職 
3.5
産業医

この記事は以下の方におすすめです。

・睡眠不足を感じていても改善できていない人

・集中力や体力の低下を実感している人

・健康を意識した生活を送りたいと考えている人

1. スマホ依存が睡眠をむしばむメカニズム

就寝前のスマホ使用が睡眠を妨げる理由

就寝前にスマホを長時間使用すると、ブルーライトが睡眠ホルモンであるメラトニンの分泌を抑制し、体内時計を乱すことが研究によって明らかにされています(2)(3)。さらに、SNSや情報収集に没頭することで脳が興奮状態となり、心身をリラックスモードに切り替えにくくなるのです(4)。その結果、睡眠の質が下がり、翌朝の疲労感や日中のパフォーマンス低下につながってしまいます。

2. あなたの身体と心が発するSOS――睡眠不足の深刻な影響

睡眠不足がもたらすデメリットは、「ちょっと寝不足くらい」で済む話ではありません。長期的に見ると、以下のように身体と心に深刻な影響を及ぼします。

1. 集中力の低下と仕事の効率悪化

睡眠不足は認知機能を鈍らせ、判断力や注意力を低下させます(5)。ちょっとしたミスが増えるだけでなく、全体的な仕事効率まで下げかねません。

2. 身体的健康の悪化

睡眠不足が続くと免疫力が下がり、風邪や生活習慣病にかかりやすくなるリスクが高まります(6)。また、回復力が不足するため、筋肉疲労や内臓の負担も増大しかねません。

3. 精神的ストレスの増加

十分な休息を取れない状態が続くと、ストレス耐性が低下し、不安感や抑うつ傾向が高まります(7)。メンタルヘルスの悪化は、さらに睡眠の質を落とす悪循環につながることも少なくありません。

3. なぜやめられない?スマホ依存を加速させる心理的背景

スマホ依存は、単なる「習慣化」では片づけられない複雑なメカニズムを含んでいます。情報が絶え間なく流れる社会では、「常に最新情報をキャッチしないと取り残される」という不安に駆られる人が多く、結果としてスマホに触れる時間が長くなるのです(1)。

さらに、SNSの通知や“いいね”といった即時的な報酬は、脳内の快楽物質ドーパミンを分泌させ、依存のメカニズムを強化します(8)。この「快感」が繰り返されることで、スマホを手放すことがより一層難しくなってしまうのです。

4. 今日から始める睡眠改善策――具体的アプローチ

1. スマホとの距離をつくるルール

• 就寝30分前にはスマホの電源をオフまたは別の部屋に置く

寝室には目覚まし時計を設置し、スマホを目覚まし代わりにしない工夫を。

• 通知をサイレントに設定

SNSやメールの通知音を切るだけでも心理的な負担が減り、無意識にスマホを手に取る回数が減ります。

2. アプリの活用

• スクリーンタイムを管理するアプリの導入

使用時間を可視化し、制限をかけるだけでも自制力が高まります。

• ブルーライトカットモードの活用

画面の光を和らげることで、睡眠への悪影響を多少なりとも緩和できます。

3. リラックスする夜のルーティン

• 軽いストレッチや瞑想

呼吸を整え、自律神経をリラックス状態に導きます。

• デジタルデトックスの習慣づくり

就寝前は紙の本を読む、音楽を聴くなど、デジタル以外のアクティビティを取り入れることがおすすめです。

4. スマホ依存に対する心理的アプローチ

• 自己モニタリング

1日のスマホ使用時間を記録し、どのタイミングで何に使っているかを振り返る。

• 周囲のサポート

家族や友人と使用ルールを共有し、お互いに励まし合うことで無理なく続けやすくなります。

5. 私が取り組む方法と実感

スマホを控えるのは想像以上に難しいものですが、私自身は**「23時以降はスマホを使わない」**というルールを徹底することから始めました。最初は物足りなさを感じる瞬間もありましたが、代わりに読書や軽いストレッチを習慣にすることで、心と体が自然に落ち着き、入眠もスムーズになっています。小さなルールを積み重ねるうちに、睡眠の質が向上し、朝の目覚めが格段に楽になるのを実感しました。

まとめ

スマホ依存と睡眠不足は、現代社会が抱える大きな課題と言えます。しかし、スマホを完全に手放すのではなく、「スマホを適度に使いこなす」ことを目指すのが現実的な解決策です。本記事で紹介したようなルール設定や心理的アプローチを取り入れることで、スマホとうまく付き合いながら心身の健康を取り戻すことは十分に可能です。ぜひ、今日から一歩ずつ始めてみてください。日々の積み重ねが、大きな変化を生み出すはずです。

参考文献

1. Job総研『2024年 スマホ依存の実態調査』を実施 無いと不安9割 … https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000227.000013597.html

2. Exelmans, L., & Van Den Bulck, J. (2016). Bedtime mobile phone use and sleep in adults. Social Science & Medicine, 148, 93–101.

3. Sohn, S., Krasnoff, L., Rees, P., Kalk, N., & Carter, B. (2021). The Association Between Smartphone Addiction and Sleep: A UK Cross-Sectional Study of Young Adults. Frontiers in Psychiatry, 12.

4. 「寝床でスマホ」は睡眠を悪化させる – 株式会社こどもみらい https://cfltd.co.jp/archives/20190711_1420

5. Kaya, F., Daştan, N., & Durar, E. (2020). Smartphone usage, sleep quality and depression in university students. International Journal of Social Psychiatry, 67, 407–414.

6. スマホ依存が引き起こす睡眠障害とは? – 阪野クリニック https://banno-clinic.biz/smartphone-dependence-sleep/

7. Xie, G., Wu, Q., Guo, X., Zhang, J., & Yin, D. (2023). Psychological resilience buffers the association between cell phone addiction and sleep quality. Frontiers in Psychiatry, 14.

8. パッションがスマートフォン依存,精神的健康, 不眠傾向に与える影響 https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjspedit/20/2/20_129/_pdf