産業医から意見書が届きました。「時間外労働は月45時間以内が望ましい」「深夜業は当面避けることが望ましい」。
読んだあと、担当者の手が止まります。これは決定なのか、参考意見なのか。そのまま上司に回してよいのか、人事で判断してから回すのか。
この記事では、意見書を受け取ったあと会社が何を決め、何を記録するのかを整理します。
意見書は、決定ではありません
産業医が行うのは、医学的な見地から意見を述べることです。就業上の措置を決定し、実施するのは事業者です。
これは役割分担の問題であると同時に、法令上の建て付けでもあります。健康診断の結果についても、面接指導の結果についても、法令は「医師の意見を聴き」「その意見を勘案して必要な措置を講ずる」という構造をとっています。
つまり意見を聴くことと、措置を決めることは、別の行為として求められています。意見書が届いた時点では、まだ会社は何も決めていません。
会社が決める3つ
1. 措置の内容
意見をそのまま採るのか、一部を採るのか、別の方法をとるのか。
意見のとおりにできない事情はあります。人員配置、業務の性質、本人の希望。その場合も、意見を十分に検討し、必要に応じて産業医へ再確認したうえで、採用できない理由と代替措置を記録します。
2. 誰に、どこまで伝えるか
意見書には健康に関する情報が含まれます。上司に「深夜業を避ける必要がある」と伝える必要はあっても、その理由となる診断名まで伝える必要は通常ありません。
措置に必要な範囲に絞って伝えるのが原則です。誰に何を伝えたかも記録に残します。
3. いつ見直すか
これが最も抜けます。就業上の配慮には、始まりはあっても終わりが設計されていないことが多いためです。
意見書に再評価の時期が書かれていればそれに従い、書かれていなければ会社の側から産業医に確認します。期限のない配慮は、必要がなくなっても続くか、誰も見ないまま自然消滅します。
記録として残すこと
後から経緯を説明できる状態にするため、次を残します。
- 意見書を受け取った日付と、その内容
- 検討した内容(誰が、いつ、何を検討したか)
- 決定した措置と、決定した日付
- 意見と異なる決定をした場合は、その理由
- 本人への説明と、本人の反応
- 再評価の予定時期
この一式が揃っていれば、「意見を聴き、勘案し、措置を講じた」という流れが記録として成立します。
判断の経緯が残っていれば、担当者が変わった後も、なぜその措置にしたかを確認し、次の再評価へつなげられます。
よくある詰まり方
意見書が抽象的で、何をすればよいか分からない
「就業上の配慮が必要」だけでは会社は動けません。この場合、会社から具体化を求めてよいものです。どの業務を、どの程度、いつまで。産業医は意見を述べる立場なので、問われれば具体化します。
本人が措置を望まない
時間外労働の制限が収入に響く、周囲に知られたくない。こうした理由で本人が配慮を望まないことがあります。
ここは会社が判断する領域です。安全配慮義務の観点から必要と判断すれば、本人の希望と異なる措置をとることもあり得ます。その場合も、検討の経緯と本人への説明を記録します。
意見書がどこにあるか分からなくなる
健康情報は取扱いを分けて保管する必要があるため、通常の人事ファイルとは別の場所になります。分けた結果、担当者が変わると所在が分からなくなることがあります。
保管場所と、閲覧できる人の範囲を、あらかじめ決めておく必要があります。
次にやること
直近1年で受け取った意見書について、上の6項目が揃っているかを確認してください。とくに「再評価の予定時期」と「意見と異なる決定をした場合の理由」の2つです。
揃っていない案件は、現在確認できる資料と関係者への確認をもとに整理します。後から補足する場合は、当時の記録と混同しないよう、補足を作成した日付と根拠資料を明記します。
措置を決めて実施するのは会社です。産業医は意見を述べ、求められれば具体化します。
出典
- e-Gov法令検索「労働安全衛生法」 第66条の5、第66条の8、第104条
本記事は一般的な情報提供であり、個別の事業場に対する産業医の意見ではありません。法令の適用は事業場の状況により異なります。