一般的な健診結果だけでは、睡眠時無呼吸(SAS)の疑いを把握しにくいことがあります。SASに伴う日中の眠気は、運転や危険作業の安全に影響し得ます。
この記事では、職場でSASをどう拾い、拾ったあと就業をどう扱うかを整理します。診断は医療機関が行い、就業措置は会社が決めます。その間を産業医がつなぎます。
職場が拾うべき理由
SASは、本人が自覚しにくい疾患です。無呼吸は睡眠中に起きるので本人は覚えておらず、日中の眠気は「疲れているから」で説明されてしまいます。同居家族の指摘で初めて疑われることも珍しくありません。
職場にとって重要なのは、この眠気が運転・高所作業・機械操作といった、一瞬の意識の途切れが事故につながり得る業務と重なったときです。国土交通省も自動車運送事業者向けにSAS対策マニュアルを公表しています。
スクリーニングの設計で決めること
SASのスクリーニングを導入するとき、会社が決める必要があるのは次の4点です。医学的な問題より、制度設計の問題が多くを占めます。
1. 対象者の範囲
全社員か、特定業務従事者か。運転・高所・機械操作など眠気が事故に直結する業務から始めるのが実務的です。範囲を広げるほど費用と運用負荷が増え、陽性者への対応も増えます。
2. 手法
問診票による一次スクリーニングか、簡易検査機器を使うか。問診票は安価で全員に配れますが、拾い漏れも拾い過ぎも起きます。機器による簡易検査は精度が上がる代わりに費用がかかります。
どちらにも「これが正解」という基準はありません。業務のリスクと費用の兼ね合いで会社が決める領域です。
3. 陽性だった人をどうするか
ここを決めずに検査だけ始めると、必ず止まります。「疑いあり」と出た人に対して、受診をどう案内するか、費用は誰が負担するか、受診結果をどう受け取るか、受診するまでの間、その人を今の業務に就けるのか。
最後の一点が最も重い判断で、しかも検査を始める前に決めておく必要があります。
4. 健康情報の取扱い
検査結果は要配慮個人情報です。誰が見られるのか、どこに保管するのか、人事評価に使われないことをどう担保するのか。これが不明確なまま案内すると、受検率は上がりません。
治療が始まったあとの就業
SASの治療は、多くの場合CPAPなどの継続的な治療になります。治療が始まれば終わり、ではありません。
就業上の観点で確認するのは、治療により日中の眠気が実際に改善しているかどうかです。機器を処方されていても使用が続いていなければ、状態は変わりません。
ここでも産業医が行うのは意見を述べることで、就業上の配慮を決めて実施するのは会社です。確認の時期をあらかじめ決めておかないと、暫定の配慮がそのまま何年も続きます。
受診勧奨で越えてはいけない線
産業医は、必要に応じて受診を勧めます。その際も、受診先はご本人が選びます。KIDUKIが特定の医療機関を指定・紹介することはありません。
会社が特定の医療機関と提携して案内する場合も、受診先の選択肢を狭めない形にしておく必要があります。
次にやること
まず対象業務を絞ってください。運転、高所、機械操作。眠気が事故に直結する業務がどれだけあるか、その従事者が何人いるか。ここが決まらないと、手法も費用も決められません。
次に「疑いありと出た人を、受診までの間どう扱うか」を決めます。この一点が決まっていれば、スクリーニングは動きます。決まっていなければ、検査結果が出た日に止まります。
制度設計は会社が決めます。産業医は、業務内容と睡眠・眠気の関係、就業上の配慮について医学的な見地から意見を述べます。
出典
- 厚生労働省「健康づくりのための睡眠ガイド2023」
睡眠ガイド2023(PDF) - 厚生労働省「睡眠対策」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/suimin/index.html - 国土交通省「自動車運送事業者における睡眠時無呼吸症候群対策マニュアル」
令和7年7月改訂版(PDF)
本記事は一般的な情報提供であり、個別の事業場に対する産業医の意見ではありません。診断と治療は医療機関が行います。特定の医療機関を受診先として指定するものではありません。