運転中のヒヤリハットが報告されました。本人に確認すると「少しぼんやりしていた」。注意喚起をして、報告書を書いてもらって、その件は終わります。

数か月後、同じ人が、あるいは別の人が、同じことを起こします。

眠気が背景にある事象を、本人の注意不足として処理すると再発します。注意力は意志で足せないからです。この記事では、眠気起因のヒヤリハットを個人の問題で終わらせないために、会社として何を確認し、何を記録するかを整理します。

「不注意」と「眠気」は別の事象です

報告書の原因欄に「不注意」と書かれた瞬間、対策欄は「注意喚起」になります。そして注意喚起では眠気は減りません。

眠気が関わる事象には、注意不足とは違う特徴があります。

  • 時間帯が偏る。深夜から早朝、そして昼過ぎに集中する
  • 本人の自覚が乏しい。強い眠気の直前に一瞬の意識の途切れが起きることがあり、本人は「気づいたら」と述べる
  • 特定の人に繰り返す。睡眠時間が足りていない、あるいは睡眠の質に問題がある場合

報告書を見返して、この3つのどれかに当てはまるものが複数あれば、個人の資質ではなく体制の問題として扱う段階にあります。

安全配慮義務の観点から問われること

事故が起きたあとに問われるのは、注意喚起をしたかどうかではありません。予見できたか、そして予見できたなら何をしたかです。

眠気起因を示す報告が積み上がっていて、勤務時間も睡眠状況も確認していなかった場合、「知り得た」と評価される可能性があります。逆に、確認して、必要な措置を検討し、その経緯を記録していれば、同じ事故が起きても説明できる状態になります。

ここでも問われるのは「やったかどうか」ではなく「説明できるかどうか」です。

会社として確認する3点

1. 勤務記録との突き合わせ

ヒヤリハットの発生時刻を、その人の直前の勤務と照らします。終業から次の始業までの間隔、直前の連続勤務、当日の勤務時間。個人の健康情報を見なくても、勤務記録だけでできます。

ここで不整合が見つかる場合、対策は勤務表の側にあります。夜勤・交代勤務の睡眠対策で扱った4つの確認項目がそのまま使えます。

2. 睡眠を妨げる疾患の可能性

いびきが大きい、日中の強い眠気が続く、肥満や高血圧を指摘されている。こうした所見が重なる場合、睡眠時無呼吸(SAS)の可能性を検討する段階にあります。

ただし診断は医療機関が行います。会社が行うのは、受診の機会をつくることと、その間の就業をどうするかを決めることです。産業医は、就業上の配慮について医学的な見地から意見を述べます。

3. 眠気を申告できる状態か

眠いと言えば運行から外れる。外れれば収入が減る、あるいは同僚に負担がかかる。この構造があると、申告は上がってきません。

申告した人が不利にならない扱いを、運用として決めておく必要があります。ここは医学ではなく制度設計の話で、決めるのは会社です。

記録として残すこと

眠気起因が疑われる事象を扱ったときは、次を残しておくと後から経緯を説明できます。

  • 発生時刻と、直前の勤務記録との突き合わせの結果
  • 本人への確認内容(健康情報は取扱いを分けて保管する)
  • 検討した措置と、実施した措置、実施しなかった場合はその理由
  • 再確認の時期

「再確認の時期」が抜けると、暫定措置がそのまま既定になります。就業上の配慮は、始めるときより解除するときの方が忘れられます。

次にやること

過去1年のヒヤリハット報告を、発生時刻順に並べ替えてください。深夜・早朝・昼過ぎに偏りがあれば、それは個人の注意力の分布ではありません。

偏りが見つかったら、勤務記録との突き合わせに進みます。措置の内容を決め、職場で実施するのは会社です。産業医は、睡眠・眠気と業務の関係について意見を述べ、判断の材料を整えます。

出典

本記事は一般的な情報提供であり、個別の事業場に対する産業医の意見ではありません。診断と治療は医療機関が行います。