眠れていない、という話から始まった面談が、数か月後に復職の可否を決める場面につながることがあります。

睡眠の相談として始まり、休職を経て、いま「復職可能」の診断書が机の上にある。相談だったものが、決定になっています。

この記事では、睡眠の問題が復職判断に変わる局面で、会社が何を持っていれば決められるのかを整理します。

相談と決定では、必要なものが違います

睡眠の相談の段階では、話を聞き、助言し、必要なら受診を勧める。それで足ります。記録は残しますが、何かを決める必要はありません。

復職の可否は違います。会社が決めなければならず、決めた結果に責任が伴います。早すぎれば再休職、遅すぎれば本人の不利益。どちらに転んでも「なぜそう判断したか」を説明できる必要があります。

この差を意識しないまま同じ温度で扱うと、決定の場面で材料が足りないことに気づきます。

復職日を決める前に、揃っていること

1. 戻る先の勤務条件が確定していること

休職前と同じ部署か、同じ業務か、同じ勤務形態か。交代勤務に戻るのかどうか。戻る先が決まっていないと、可否の判断そのものができません。

「まず復職させて、それから配置を考える」という順序は、判断を後ろへ送っているだけです。

2. 生活リズムが、勤務に合う形で安定していること

出勤に間に合う時刻に起きられているか。日中の活動が保てているか。復職時の睡眠評価で扱ったとおり、ここは本人が答えやすく、確認しやすい指標です。

眠りが戻らないまま復職日だけが決まると、早い段階で勤務を続けにくくなることがあります。再休職を避けるためにも、復職前の準備と復職後の再評価を一つの計画として扱います。

3. 主治医への確認事項が整理されていること

必要な情報があるなら、本人の同意を得たうえで主治医に確認します。何を、何のために聞くのかを本人に示すのが前提です。

主治医は職場の状況を知りません。勤務条件を具体的に示したうえで問うと、答えが具体的になります。「復職可能か」ではなく「この勤務条件で就業した場合に留意すべき点はあるか」と尋ねる形です。

意見と決定を分ける

産業医は、復職の可否、勤務条件、再評価の時期について意見を述べます。復職日を決め、勤務条件を適用し、職場で実施するのは会社です。

厚生労働省の「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」も、この分担を前提に5つのステップを示しています。産業医の中核的な関与は第3ステップにあたります。

実務では、意見書の文面が「決定」に読めてしまうことがあります。読み手が判断を委ねてしまうと、会社が検討した記録が残りません。意見は意見として書き、決定は決定として記録することで、後から経緯を説明できる形になります。

復職後に、必ず来るもの

復職はゴールではありません。復職直後には何らかの配慮が付くのが通常で、その配慮はいつか外されるべきものです。

再評価の時期を決めずに復職させると、配慮がそのまま既定になります。本人は制限を受けたまま、会社は解除の契機を失います。就業制限を「解除し忘れる」構造で扱った問題が、ここから始まります。

復職の意見書には、必ず再評価の時期を含めます。書かれていなければ、会社から確認します。

記録として残すこと

  • 診断書の内容と、受け取った日付
  • 戻る先の業務内容と勤務条件
  • 本人の同意を得て主治医に確認した事項と、その回答
  • 産業医の意見
  • 会社が決めた復職日と勤務条件、決定した日付
  • 再評価の時期と、その結果

この一式があれば、順調に復帰した場合も、再休職に至った場合も、何を根拠に判断したかを説明できます。

次にやること

いま復職の判断を控えている案件があるなら、上の6項目のうち何が揃っているかを確認してください。1つ目の「戻る先の勤務条件」が決まっていないのであれば、そこが最初の作業です。

睡眠の相談として始まった案件が復職判断に変わったとき、記録が相談の温度のままだと材料が足りません。局面が変わったことに気づいた時点で、記録の粒度も変えます。

決めるのは会社です。産業医は、本人の状態と戻る先の業務に照らして意見を述べ、判断の材料を整えます。

出典

本記事は一般的な情報提供であり、個別の事業場に対する産業医の意見ではありません。診断と治療は医療機関が行います。主治医への情報提供の依頼は、ご本人の同意を得たうえで行います。